イランに行ったからこそ分かるハリウッド映画「アルゴ」の秘密
史上最もエキセントリックな脱出劇
事実に基づいた作品とは到底思えない
ベン・アフレック監督作「アルゴ」を知っているだろうか。
イラン革命につづく、アメリカ大使館人質事件を受け、CIAの工作員があるとんでもない方法でイランにいるアメリカ人を救出するという物語だ。
そのとんでもない方法とは、人質となっているアメリカ人たちを、イランをロケ地にしたカナダ人SF映画撮影クルーと偽装することであった。
何から何まであまりに現実離れしているので、到底史実とは思えなかったのだが、この映画のベースは史実に基づいているのである。
以下では、実際にイランへ渡航した私がアルゴについて解説しながら気づいた点について解説していきたいと思う。
なんでいちいちSF映画にしたのか?
意外や意外・・・。
そもそも「アルゴ」とは、このでっち上げSF映画のタイトルである。
救出作戦では、異星を舞台としているため、地球っぽくない風景のロケが大事なのだと必死に説明がなされているのである。
なんでいちいちSF映画などを選んだのか。
いくら国土が広いとはいえ、そんなに都合よくイランで「地球っぽくない」風景など見られるのだろうか?
なんと簡単に見られるのである。
写真は、テヘランからイスファハンへと向かう車窓から撮影したものである。
荒涼とした大地に輝く夕日、この不思議な光景はなかなかSF感あふれるものではないだろうか?
イランでは、このようにダイナミックで不思議な風景の撮影を行うことが簡単なのである。
空港での緊張感あふれるシーン
映画の見過ぎで、自分のときも緊張してしまった
この映画で最大のハラハラシーンと言えば、最後撮影クルー(アメリカ人人質たち)が空港で出国審査を受ける場面である。
革命防衛隊のお兄さんがペルシャ語で何やらきつく物を言う姿、あまりの剣幕に、出国できなくなるのではないかという緊張感が高まるシーンである。
自分も出国審査のとき、ペルシャ語でまくしたてられたらどうしようなどとハラハラしていたのだが、、
意外や意外さらっと終わってしまった。
特にほかの国と比べて厳しいといったこともなく、身体検査等を抜ければあっという間に搭乗ゲートである。
搭乗ゲート前にはいくつかこぎれいな売店まで並んでおり、私は乾燥ローズを購入した。
結局、空港では、勝手にハラハラしていたのがばかばかしくなるくらい平穏に過ごすことが出来たのであった。
町中は殺伐としていない
映画の描写が怖すぎる
映画の描写は、そもそも部隊が革命直後ということもあって全く現在の状況とは異なっているということは理解しておくべきだが、それにしても殺伐と描かれすぎである(笑)
バザールで写真を撮ったら店主がキレ始めるというシーンがあったが、あそこまで心の狭い人に私は滞在中一度も出会うことはなかった。
むしろ写真を撮ってくれと頼まれることも多く、非常にウェルカムな空気感があふれていた。
また、イラン人と話してみると反米だとか反西洋のような思想を強く持っている人が多数を占めるわけでもないということも強く感じる。
イランは、お人よしで親切な(ちょっとおせっかい)優しい人たちが多い国であると思う。
映画での描写は必要以上に「私たちとは相いれない存在」としてのイラン人を強調しているように感じる。
実際に渡航することで感じたことは、むしろ「非常に身近な存在」としてのイランの人々たちであった。
特にこちらが日本人であると伝えると皆顔がパッと明るくなり、ただでさえ優しい彼らがもっと優しくなっていった場面が何回もあった。
この映画自体がアメリカのプロパガンダだと一部では言われている。
しかし、監督であるベンアフレックはアメリカ礼賛のような意図をもって制作したわけではないようだ。
むしろ人々にイランという国を理解してほしいという思いもあったようである。
アルゴを通じて、アメリカ側に寄った解釈ではあるものの、イラン革命、アメリカ大使館員人質事件という世界史に残る重大事件について知り、イランへの興味を深めることが出来れば、監督の意図も果たされるのではないだろうか。
現在にまで続くアメリカとイランとがぎくしゃくしてしまった原因を抑えるための第一歩としてアルゴは非常に良い教材になると感じている。