タピオカブームが嫌いなあなたに
紹介する本
なぜ「それ」が買われるのか? 情報爆発時代に「選ばれる」商品の法則 (朝日新書)
「良い物」であれば売れた時代は過去のものである。情報があまりに多すぎる中で消費者が「選べない」そんな時代が到来しているからだ。
そんな時代に人々は、選択肢に「枠組み」を設定しながら自身がより満足できる消費を行おうとしている。
タピオカが苦手だ
最近、渋谷を通行すると必ず見かける光景がある。
店舗に並ぶ行列だ。
行列は数メートルから長いものでは数十メートルにも及ぶ。
何に彼らは並んでいるのか?
ほかならぬタピオカである。
並ぶだけならいいのだが、飲み切れない余りものは町中で廃棄されているそうだ。
たしかに、正直言ってタピオカはあまりヘルシーな飲み物ではない。
ミルクティーに含まれる砂糖の量は信じられないほど多いし、タピオカ自体もかなりの糖質だ。
ダイエットを気にする女性が、とりあえず写真だけ撮れれば、飲み切るほどの価値はないと考えても不思議ではない。
私自身、タピオカは苦手だ。
記念にと台湾で飲んだタピオカもなかなか飲み切れず、甘さで気持ち悪くなった記憶がある。
口に入れたくないほどタピオカが嫌いというわけではないのだが、タピオカブームになるほど人々が熱中する理由がわからなかったのである。
そんなときに、ふと読んだ「なぜ「それ」が買われるのか?-情報爆発時代に「選ばれる」商品の法則」で、タピオカブームを理解するヒントを得たのであった。
情報疲れと枠組み戦略
情報疲れというキーワードを聞いたことがないだろうか。
あまりに多くの情報にさらされ続け、思考がパンク状態に陥ってしまうことだ。
毎日のように、世界中から情報がもたらされ、思考を整理する間もなく次の情報が来る、こんな日々の繰り返しで情報疲れに陥ってしまう人も少なくないという。
放っておいても次々に情報にさらされ続けた私たちはいったいどうなっていくのか?
本書では選択のパラドックスが例として挙げられている。
つまり、
「…選択肢が増えるほど「最善の選択肢」を選べる確率は低くなる。正しい選択をしようとして選ぼうとするのに、選べないという矛盾がおこるのだ。さらに選択肢が多すぎるがゆえに「選択した後に後悔する気持ち」が生まれ、結果的に買い物の満足度を下げてしまう…」
という思考のプロセスのことである。
昨今、無数の情報にさらされ続けることによって、私たちは何が「最善」で「後悔しない」選択肢なのか判断しにくくなってきているのではないだろうか。
枠内の戦略
「興味はあって、選びたいけど情報や商品が多すぎて選べない」という領域で買い物ストレスを回避するために起きていたのは、すべて他人に「委ねたい」という買い物ではなく、「選択肢を絞り込んで」もらうことだった。
という部分は現代人の思考をよく表現している。
本書はこれを「枠内の戦略」と名付けている。
つまり、消費者は、あまりにも多すぎる情報の中から自分で選択を行うというハードルの高いプロセスではなく、ある程度さきに絞られた中から選択を行おうとしているのだ。
先に情報に枠組みを設定し、その枠組みの範囲内で自身が自由に選択を行えるようにすることで、「情報疲れ」によって選択すらやめてしまうという状況を避けているのだ。
私たち現代人が、トレンドを追うためには毎日生まれる無数の商品をチェックし続けなければならない。
しかし、現実的に私たちがカバーできる範囲はとても狭い。
そのような時、私たちが使うツールは何か。
有名人が実際に行ったという情報や、友人がアップした写真、雑誌やテレビの特集などではないだろうか。
つまり、人々は、自分が信頼できる有名人であったり友人、メディアなど情報源をさきに絞り込み、「その人たちが紹介した情報」の中から自分に合いそうなものを選択するようになってきたのだ。
タピオカブームの正体
上記の理論を当てはめていくと、
ある人がタピオカを紹介する。
その人を「枠組み」として信頼する人が、タピオカを選び、紹介する。
さらに、その人を「枠組み」として信頼する人が、タピオカを選び、紹介する。
という無限の繰り返しが、タピオカの一大ブームを生み出したといえるのではないだろうか。
無数にあるトレンド商品に興味はあるが、何から手を付ければいいかわからないという悩みを解決するのがSNS上に多数存在するインフルエンサーだ。
彼らが提供する情報に乗っかっていれば、自分であやふやなチョイスをした結果大外ししたという悲劇は防げるのだ。
タピオカブームとは、情報過多の時代に、あえて自分の情報源を狭めるという、人々の生存戦略と密接に結びついているのだ。
しかし、本書では
調査の結果として菓子・デザート(そもそもタピオカがこのカテゴリーに入るのかは謎だが)を「自分でいろいろ見て選ぶことが楽しいし、苦にならない」買い物の領域として捉えている。(書中でも個人差があることは指摘されている。)
つまり、タピオカを購入することは人々が自分で進んで選んだチョイスであるとされているのだ。
私は、これに疑問符を投げかけたい。
冒頭でも述べたが、渋谷や原宿周辺では、廃棄タピオカが問題となっているという。
「自分で楽しく、選んだ商品」を人々がポイ捨てすることはあるだろうか。
ここにトレンド商品のブームの問題点が現れているように思う。
「良い物」であれば売れた時代が過ぎ去ってしまった一方で、一部のインフルエンサーが紹介するものであれば驚くべきスピードでブームが拡散する。
そのプロセスの中では、タピオカのことを本当は好きではないにもかかわらず、購入している層が生まれ続けているのである。
その結果としてタピオカは捨てられ続けているのではないだろうか。
本書は、まさにそんな「ブーム」の中心にいる広告代理店、博報堂が消費者行動分析をまとめた力作である。
タピオカブームに反発を覚えるあなたにこそおすすめしたい一冊だ。